スポーツ科学の基礎:エネルギー供給系

健康・運動

私たちの筋肉はどんなエネルギーを使って動いているのでしょうか?

それはATP(アデノシン三リン酸)です。

下記のようにATPを分解し、その際に発生するエネルギーを利用して筋肉が動くのです。

筋肉を動かすエネルギー

ATP → ADP + Pi + エネルギー

残念ながら、ATPは体内にわずかしかありません。

そこで、私たちはこのATPを再合成して利用しています。

今回は、ATPを再合成する経路とその特徴について以下の内容で解説します。

  • ATPの再合成経路
  • ATPの再合成経路の特徴
  • 運動種目とエネルギー供給系
  • 無酸素運動・有酸素運動

ATPの再合成経路

ATPを再合成する経路には3つあります。

ATPの再合成経路
  • ATP-PCr系
  • 乳酸(解糖)系
  • 有酸素系

では、それぞれを簡単にみていきましょう。

・ATP-PCr系

PCrはクレアチンリン酸といわれる物質です。

PCrがADPと化学反応することでATPが再合成されます。

PCr + ADP → ATP + Cr(クレアチン)

・乳酸(解糖)系

糖質を分解する過程でATPを再合成します。

糖を分解する中で、最終的に乳酸が産生されることから、乳酸系と言われます。

また、糖を分解することから、解糖系と言うこともあります。

スポーツ科学関連の書籍では乳酸系と記載されていることが多い印象です。

ですので、ここでは乳酸系として表記します。

・有酸素系

糖質、脂質を利用して、これらを分解する過程でATPを再合成します。

タンパク質も利用されるのですが、糖質や脂質と比較するとその割合は少なくなります。

化学反応で酸素を利用することからこの名前が付いています。

ATPの再合成経路の特徴

各経路の特徴を一覧にしました。

エネルギー供給系酸素エネルギー基質エネルギー容量
[kcal/kg]
エネルギー産生速度
[kcal/kg/秒]
持続時間
[秒]
ATP-PCr系必要なしPCr10013約7〜8
乳酸系必要なし糖質2307約33
有酸素系必要糖質・脂質無限大3.6無限大
各エネルギー供給系の特徴

・酸素

化学反応で酸素が必要なのか、酸素が必要でないかを表しています。

ATP-PCr系と乳酸系は酸素がなくてもATPを再合成できることから、無酸素系とも言われます。

・エネルギー基質

再合成で何が利用されるかです。

糖質は、乳酸系と有酸素系の両経路で使用できるので大変便利です。

一方、脂質は、有酸素系しか使用できないことに注意が必要です。

つまり、脂質を運動によって減らすことを考えるのであれば、有酸素系を使う運動をする必要があるということです。

・エネルギー容量

各エネルギー供給系がどのぐらいのエネルギーを貯蔵しているかを表しています。

PCrは貯蔵量が最も少なく、有酸素系では糖質と脂質が使えることから無限大となっています。

ただ、糖質はそんなに貯蔵できません。

それに比べて、脂質の貯蔵量がとても大きくなります。

例えば、50kgの女性で体脂肪率が20%だとします。

20%は決して肥満ではなく、標準的な数値です。

それでも、20%ということは計算上10kgの脂肪が貯蔵されていることになります。

・エネルギー産生速度

文字通りエネルギーの生み出されるスピードです。

大きなパワーを必要とする運動では、短時間で多くのATPを必要としますので、ATP-PCr系が最適な経路となります。

ATP-PCr系に比べて、乳酸系の産生スピードは半分、有酸素系では1/4になってしまいます。

陸上で考えると、短距離系はATP-PCr系、中距離は乳酸系、長距離は有酸素系にATPの再合成を依存しています。

・持続時間

エネルギー容量をエネルギー産生速度で割ったものが持続時間になります。

ATP-PCr系は、エネルギー産生速度は早いけれども、貯蔵量が少ないので、7〜8秒程度しか持ちません。

乳酸系のみの場合は33秒です。

ですから、酸素を必要としない無酸素系では、理論的に40秒程度の運動が可能ということです。

有酸素系は、脂質を使用できることから、理論的には無限大となっています。

運動種目とエネルギー供給系

10秒以内で終了するような競技、例えば100m走や投擲などでは、ATPをATP-PCr系に依存しています。

40秒程度で終了するような競技、例えば400m走などでは、ATP-PCr系と乳酸系に依存しています。

これ以上の時間になると、有酸素系の関与が増加していきます。

そして、3分を超えるような、例えば1000m走やマラソンなどではATPを有酸素系に依存することになります。

ですから、競技パフォーマンスを向上させるためには、種目にあったエネルギー供給系を鍛えるようなトレーニングが必要になります。

トレーニングは何でもよいからやれば良いというものではないのです。

難しいのが、例えば、野球、サッカー、バレーなどの球技種目です。

ポジションや攻撃・守備などによって、動きが大きく異なります。

例えば、サッカーを例に考えると、ディフェンスなどは常に動き回ってないといけないポジションです。

一方、フォワードは、一瞬のチャンスを見逃さず、瞬発的な動きでシュートを決めるポジションになります。

一概にサッカーという種目の中でも、ポジションによって必要となるエネルギー供給系が異なります。

このような競技の場合は、ポジションでの動きの特性に応じたトレーニングを考える必要あります。

無酸素運動・有酸素運動

ある運動で、その運動に必要なATPのほとんどが無酸素系に依存するものを無酸素運動といいます。

一方、運動に必要なATPのほとんどが有酸素系に依存するものを有酸素運動といいます。

よく、「自転車運動は有酸素運動」みたいな言い方をされますが、厳密には間違いです。

自転車運動でも、高強度(全力こぎ)になれば、無酸素運動と分類されます。

スポーツの種目でなく、運動強度で無酸素運動か有酸素運動かが決まるのです。

健康づくりの運動を実践する際には気をつけたいですね。

まとめ

  • ATPを分解する際に放出されるエネルギーを用いて筋肉は動いている。
  • ATPを再合成する経路には、ATP-PCr系、乳酸系、及び有酸素系がある。
  • ATP-PCr系は、エネルギーの産生スピードが早いため大きなパワーを生み出すことができるが、持続時間が7〜8秒と短い。
  • 乳酸系は、生み出せるパワーはATP-PCr系よりも半減するが、持続時間が33秒と長い。
  • 有酸素系は、パワーは小さいが、長時間のエネルギー供給が可能である。
  • 競技種目にあったエネルギー供給系をトレーニングすることで、競技パフォーマンスの向上が期待できる。

せっかく行うトレーニングですから効果あるものにしたいですよね。

そのためには、まず、自分のやっている種目がどのエネルギー供給系でエネルギーを生み出しているのかを理解することが大切です。

根性だけではダメですよ!

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